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大阪高等裁判所 平成8年(う)72号 判決 1996年5月07日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大西慶助作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中法令適用の誤りの主張について

論旨は、要するに、原判決は、判示第四において、被告人の行為を道路交通法六七条二項の呼気検査拒否罪に該当するとしているが、同項の呼気検査は道路交通の危険防止の行政目的のために行われる応急措置であるところ、本件においては、警察官が説得したにもかかわらず被告人が検査を拒否したので、呼気検査の拒否罪に当たるとして被告人を現行犯逮捕し警察署に連行したうえ、身体検査令状と鑑定処分許可状を得て医師による血液採取及びその鑑定をなし、酒気帯び運転を立件して刑事手続に移行したものであるから、本件交通検問は、単なる行政目的にとどまらず、初めから酒気帯び運転の検挙・立件という刑事手続を主な或いは競合的に目的としたものであり、最高裁判所昭和三一年七月一八日大法廷判決(刑集一〇巻七号一一七三頁)の趣旨からいっても、呼気検査を拒否罪をもって強制することは許されないので、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、記録を調査して検討するに、道路交通法六七条二項の呼気検査の規定は、道路における交通の危険を防止するため、車両等に乗車している者等が酒気帯び運転をするおそれがある場合において、警察官に呼気検査の権限を定めたものであるところ、本件の被告人の場合も右の趣旨で警察官が被告人の呼気検査をしようとしたものであり、被告人がこれを拒否したことが十分認められるから、所論指摘の判決の趣旨からいっても、被告人に呼気検査拒否罪の成立が認められることは明らかである。本件については、確かにその後、所論が指摘する経過によって被告人の酒気帯び運転の行為を立件して刑事手続に移行しているが、だからといってさかのぼって前記警察官の危険防止の措置の性質が変わるものではなく、呼気検査拒否罪の適用が許されなくなるものではない。原判決に所論の法令適用の誤りはなく、論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

論旨は、被告人を懲役四月及び罰金三万円に処した原判決の刑が不当に重すぎるというのである。

そこで検討するに、本件は、酒気帯び運転一件、無免許・酒気帯び運転二件及び右の際の呼気検査拒否一件の事案であるところ、いずれも酒気帯びの程度が高く、きわめて危険な行為であるのみならず、うち一回は、現実に民家の塀に衝突する物損事故を起こしていること、被告人には、酒気帯び運転ないし無免許運転等悪質な交通事犯による前科が多く、禁錮刑及び懲役刑を各一回受けて受刑し、その後も三回酒気帯び運転で罰金刑に処せられており、この種事犯の常習性がうかがわれ、更に呼気検査拒否の行為にまで及んで、法無視の態度が著しいことなどによると、犯情は悪いといわざるを得ないから、被告人が物損事故の被害弁償をしたことやその家庭事情など被告人のため酌むべき一切の事情を考慮しても、原判決の刑は相当であり、これが重すぎるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法一八一条一項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

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